家を曳くという仕事

  家という物は、ただ単に生活する場所というだけの器ではなく、そこに暮す人達の日々の生活、喜怒哀楽、様々な思い出や人生の全てが染み込んだかけがえの無い場所です。又、暮す人達の状況に応じ変化していくものでも有ります。そんな大切な場所を守り伝えていく為に曳家という仕事があります。

呉は海に面し又海の上に浮かぶ島を多く抱えています。近年、温暖化に伴い海面の上昇が見られ、大潮や高潮、台風の時など浸水の被害を受ける人達が増えてきました。そんな時、今まで過ごしてきた家を壊して建替えるのは簡単な事ですが、その家の持つ大切な思い出と一緒に家を持揚げ今までと同じ場所で同じ家で、時間の流れを引き継ぎながら過ごせるように出来る、それが家揚げという仕事です。

時には区画整理や道路拡幅等の為、あるいは何かの事情があって今ある場所からの立退きが必要に成った時、又陽当たりが悪いので建物の向きを変えたい。昨今の車社会においては駐車場の確保が大変で、1人に1台車が必要になったので家を持上げて車庫を作りたい等々いろいろな要望があります。他にも土地を有効活用するために、建物だけでなく手水社や灯篭、石碑などを其のまま持ち揚げて移動させる、曳くと言う事も曳家の仕事です。

そもそも曳家とは何かと言うと、建築物や橋梁、重量物等の移動工事を生業とする職業の事で、移動のみならず沈下修正、補強、補修も行います。ですが余り需要が多くなく、一般の人達の目に触れることが少ないので認知度の低い業種でもあります。とはいえ旧首相官邸の移動や旧奈良駅の駅舎など、文化財の保存分野に大きな係わりを持ち今後も大切に引き継いで行かなければならない伝統の技術なのです。

文化財ばかりではありません。今惜しげもなく壊されている建物もそうです。昔から家を建てる時、その場所に近い所で伐採された材木を使って建てるとその土地の気候風土に合っているから家が長生きすると言いわれてきました。昔に建てられた家はその近在の山から切り出された木を使って建てられたものが多く、もう少し大切に使って欲しいと思う事が多いです。

木造の家は人に優しい建物です。古い家は今時の洒落た家にはかなわない事もあるかもしれません。ですが古い建物のもつ味わいや優しさ、そこに暮した人達やその家に伝えられる先人の思いをもっと大切にし、残していきたいと思うのです。

家が動くという事は普通には考えられない事かもしれません。ですが太古の昔から人は大きな物を曳いて動かしてきました。ピラミッドの石、大阪城の石、テコとコロを使って曳いていました。家も同じです。以前は丸太をコロの代わりに使い柱を固定する為床を剥いだり、その為柱に傷が付いたりしていましたが、今は道具も進化して随分便利になりました。

現在では、その家で生活しながら家財道具も何一つ動かさず家を動かすことが出来ます。その家に暮す人達の思い出も生活の流れも、何も変える事無く家が動くだけです。曳家という仕事で、単に家や物を残すというだけでなく、その家や物が持つ大切な何かを後世に残す事が出来ると言う事を誇りに思っています。

有限会社 家頭組